産地を見極めて挽く、季節ごとの蕎麦づくり
北海道産きたわせや福井県産など、複数の産地から届く蕎麦の状態を見ながら、その時期に最も仕上がりのよいそば粉を選んでいる。秋口は北海道産から使い始め、時季の移ろいに合わせて産地を切り替えていく方式で、年間を通じて品質の波を抑えている。手挽きから手打ちまで一連の工程を職人がひとりで担い、細切りに仕上げた麺は香りの立ち方が鮮やかだ。つけ汁への絡みと喉越しの軽さを両立させており、何杯でも箸が進む仕上がりになっている。
個人的には、細切りでありながらしっかり汁を持ち上げるこの麺のバランスが印象的だった。蕎麦 じきさいが拠点を構える備前の地で日々技術を磨いており、挽き加減や打ち方の微調整は毎朝のそば粉の状態次第で変わるという。「蕎麦の香りがここまで残っているお店は珍しい」という声が来店者から目立つ。粉の選定から仕上げまで全工程を手作業で通すことで、機械製麺では出しにくい風味の輪郭を残している。
自家栽培の野菜が脇役以上の存在感を放つ
ネギ、玉ねぎ、人参、春菊、大根、ごぼう——蕎麦 じきさいの畑で育てた野菜が、薬味にも天ぷらにも筑前煮にも使われている。自分たちで栽培した素材だからこそ収穫のタイミングを料理に合わせて調整でき、甘みや食感のピークを逃さず皿に載せられる。鴨せいろに添えるネギは鴨肉と一緒に焼くことで脂を吸い、風味が一段階跳ね上がる。春菊や小エビを合わせたかき揚げも、畑直送の野菜が揚げ衣の中でしっかり主張していた。
鴨せいろを注文した人からは「ネギがここまで甘いとは思わなかった」という感想が寄せられているそうだ。鴨の脂がネギの繊維に染み込む過程で旨味の層が厚くなり、そこに細切り蕎麦の香りが重なる構成は、このメニューならではの組み立て方だろう。かき揚げせいろも好意的な評価が多いメニューのひとつで、野菜の自然な甘さが揚げ油の香ばしさと噛み合っている。備前という土地の気候が、こうした野菜の味の濃さに関係しているのかもしれない。
伊部駅徒歩5分、備前観光の合間に立ち寄れる場所
伊部駅から歩いて約5分、旧道沿いに蕎麦 じきさいはある。駐車場を備えているため車での来店にも対応しており、美術館や窯元を巡る途中に足を運ぶ人が少なくない。備前焼の里として知られるこのエリアの散策ルート上に位置していることが、観光客の流れと自然に重なっている。公共交通機関でも車でもアクセスしやすい立地条件を備えた店舗だ。
温かいつけ汁系では鴨せいろ、豚せいろ、かき揚げせいろといったラインナップが並び、麺の大盛りや追加メニューにも対応している。窯元を3軒回った後に鴨せいろを頼む、という過ごし方をしている常連もいるという話を聞いた。備前の文化に触れた流れでそのまま手打ち蕎麦に向かえる距離感は、この立地ならではの利点だろう。お好みに合わせてメニューを組み合わせられる自由度の高さも、リピーターが増えている一因と感じる利用者が多い。
カウンター越しに見える職人の手仕事
南側に設けられたカウンター席では、手挽きから手打ちまでの工程を目の前で眺めながら食事ができる。一人で訪れても気負わず座れる距離感で、職人の手元に視線が自然と向く配置になっている。北側の窓際にはテーブル席があり、こちらは落ち着いた空間でゆっくり食べたいカップルや家族連れに向いている。全席禁煙で、木を基調にした横長レイアウトの店内は清潔感がある。
「カウンターで蕎麦を打つ音を聞きながら食べると、なんだか贅沢な気分になる」と話す常連客がいるそうだ。木の質感を活かした内装は機能美を意識した設計で、席数を絞っているぶん一席ごとの空間にゆとりがある。初めて訪れた人でも居心地のよさを感じやすい構成になっており、蕎麦 じきさいのスタッフは接客の丁寧さにも気を配っている。


